観劇レビュー・感想

種をまく人

こんばんは。

七咲ぴえるでございます。

世間はクリスマスでしたね~。

そんなクリスマスシーズンに七海ひろきのお兄様は退団後初のディナーショーを開催。

ディナーショーが近付くにつれヒロキストの皆様が仕様通り壊れていく様子を、
今回は行くことのできないピエールは羨ましくも微笑ましく見ておりました。

セットリストを友達が送ってくれたのですが、
宝塚時代の曲がもりだくさんの内容のようで……( ;∀;)

いいないいな~。

そういえば皆さん、サンタクロースって何才まで信じてました?

僕はたしか幼稚園のときに、
「お父さんがプレゼントを隠してるの見ちゃった」という友達の証言によりサンタの不在を知りました。

ちなみに今年子どもが生まれたばかりの友人・肉島くんは、
「サンタなんか信じるとお金かかって大変だから『サンタはいない』ってすぐ教える」と言っておりました(笑)。

まだ物心ついてない0才児に「いいか?サンタはいないんだぞ?」って教え込む肉島くんを想像すると笑い話になってしまいますが、
この不況じゃクリスマスに夢を見させてあげられない家庭も増えてるでしょうからね……。

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「種をまく人」

そんなクリスマスを直前に控えた12月23日(月)。

ピエールさんは仕事帰りにとある映画を観に行ってまいりました。

スターウォーズ?

違います。

アナ雪?

パート1すら観てないですからね~。

では何かというと、こちらでございます。

「種をまく人」です!!

 

…………(⌒∇⌒)

 

ピンと来ないって?

そうですね~、なんせいわゆる単館上映ってやつで、
池袋のシネマロサという小さな映画館でしか上映されていないのですよ~。

ではなぜこの作品を観に行ったかと言うと、ここを拡大して見てみましょう。

くらえ!!

そうです。

「俺のしずく」こと、元月組の羽桜しずくさんこと、中島亜梨沙さんでございます!

羽桜さんと言えば、先日の明日海りおさんの千秋楽に同期生からのお花渡し役として登場しましたよね~。

現役時代を知る人間としても嬉しかったですが、
当時を知らない方の間でも「あの綺麗な人、誰??」と話題になっておりました。

ちなみにこの写真だとすごいやつれて見えますがそれはそういう役柄だからであって、
「あー、しずくちゃんもこんなにくだびれた感じになっちゃったのか~」というご心配は無用です!

やつれた役でもキレイでしょ~(⌒∇⌒)

予告編をご覧になっていただければ少し雰囲気伝わるかなと。

で、宝塚と直接関係は無いのですが、
せっかく観に行けたのでちょっと記録を残しておきたいなと思いまして、
ご紹介がてら感想を書かせていただこうかなと。

ずっと観に行きたいな~と思いつつなかなかタイミングが合わなかったのですが、
今週は上映時間が夜になって仕事帰りに行けるので令和元年最後の映画鑑賞と駆け込んで来た次第です。

あらすじ

ではまず簡単にどんなお話かというあらすじを。

ネタバレしてしまいますので、これから観に行こうと思われている方はご注意くださいませm(_ _)m

3年ぶりに病院から戻った高梨光雄は、弟・裕太の家を訪れる。
再会を喜ぶ姪の知恵、その妹でダウン症の一希に迎えられ束の間の幸せを味わう光雄。
その夜、知恵にせがまれた光雄は被災地で見たひまわりについて語る。
知恵はその美しい景色を思い浮かべながら、太陽に向かって咲くひまわりと、
時折ふと空を見ている愛しい一希の姿とを重ね会わせるのだった。

明くる日、知恵は光雄と遊園地に行きたい嘆願する。
裕太と妻・葉子はそれを快く受け入れ、娘たちを光雄に預けるが・・・
幸福な時間も束の間、遊園地で突然の不幸が訪れる。

(映画『種をまく人』公式サイトより)

物語の主人公は二人。

一人は、精神病院に入院していた中年男性の光雄。

詳細は語られていなかったのですが、
おそらく東日本大震災で被災して心に深い傷を負ってしまったようです。

そしてもう一人は、その光雄の弟の娘(つまり姪)、
小学生の知恵(ポスターに大きく写ってる女の子です)。

まるで浮浪者のような出で立ちの光雄ですが、
知恵はもともとすごく光雄に懐いていたようで、
3年ぶりにやってきた光雄おじさんを喜んで歓迎していました。

そんな知恵のお母さん、葉子を演じているのが、
我らが俺のしずくこと中島亜梨沙さんです。

葉子と、夫の裕太の間には、知恵の他にももう一人、
ダウン症の娘、一希いつきがいます(男の子っぽい名前だけど女の子)。

 

ある日、葉子は一希を母親(つまりおばあちゃん)に預かってもらう約束をしていました。

けれど突然その母親から「急に用事ができて預かれなくなった」と連絡が入ります。

自分も夫も仕事で留守にしてしまう中、
どうしたものかと困り果てていたところ。

光雄にねだって遊園地に連れて行ってもらう知恵と共に、
一希も光雄に預かってもらうことになりました。

一希を連れて、光雄と共に遊園地で楽しそうに遊ぶ知恵。

しかし、そこで悲劇が起きました。

 

光雄がトイレに行って目を離したわずかな隙に。

一希を抱っこしてあやそうとした知恵が、
誤って一希を地面に落としてしまったのです。

トイレから戻った光雄は訳も分からず慌てて一希を病院に搬送しますが、
一希はそのまま息を引き取ってしまいました。

駆け付けた母の葉子は、変わり果てた一希を前にしてパニックになりながら、
「いったい何があったの!?」と知恵と光雄を問い詰めます。

知恵を思って何も答えられない光雄。

しかし知恵は、自分が一希を死なせてしまった恐怖から、
残酷な嘘をついてしまうのでした。

「おじちゃんが落とした……」

泣きじゃくりながら答えた知恵の言葉に驚きながら、
憎しみのまなざしで光雄を睨む葉子。

否定も肯定もしない光雄は、知恵をかばって罪をかぶってしまうのでした。

残酷な世界

この作品、何がテーマかと問われると一言で表すのはすごく難しいのですが、
間違いなく一つ根底にあるのは「障害者を抱えた家族」です。

僕が子どもの頃よりも、ダウン症を始めとするあらゆる病名を聞く機会が増えたような気がします。

でもそれは単純にその病気を抱える人が増えたということではなくて、
かつては障害者がいることを公にすることすらできなかった家族が多かったんじゃないかと思います。

そもそも僕もダウン症という病名もよく耳にはするけれどどんな病気かはあまり理解できていませんでした。
(恥ずかしながら最初はなんか疲れやすい病気かと本気で思っていたくらい……)

 

この作品は、単純に障害児を抱えた家族を描いているだけではなく、
障害者のいる家系が抱え続ける苦しみが描かれているのです。

なぜならば、震災で心に傷を負って精神病院に入院していた光雄は、
ただそれだけで「普通じゃない人」という偏見で見られ、
一希がダウン症を患って生まれてきたのも、
光雄や弟の裕太の家系に原因があるという目で見られてしまっているのです。

それは無責任な他人から言われるだけでなく、
追い詰められた母親の葉子さえ、
「あなたの家系のせいに決まってる、他に何があるって言うのよ……?」
と夫に対して言ってしまいます。

そんな「普通じゃない」光雄が幼い一希を「落っことした」と聞いたら、
誰もそれを疑おうとはしないでしょう。

「やっぱりあんな人に子どもを預けるべきではなかったんだ」と、
母の葉子は親戚たちから責められてしまい、自分でも自身を追い詰めてしまいます。

慕っていた光雄に罪をなすりつけてしまった小学生の知恵。

けれど彼女もまた、「嘘をついて大好きなおじちゃんに罪をなすりつけた」という別の罪を背負うことになってしまうのです。

ある日、知恵は罪悪感と恐怖に耐えきれず、
ついに母親に「私が落としたの」と告白します。

しかしそれを聞いた母・葉子は知恵に答えました。

「そのこと、絶対に誰にも喋っちゃ駄目よ……?」

この場面の羽桜さんの狂気に満ちた目が本当に怖くて怖くて。

一希を失い、残されたもう一人の娘を守るためとは言え、
小学生の娘に嘘をつき続けることを強いる心理は、
ただ単に「悪意」という言葉だけでは表現できないものだと思います。

ストーリー的に引き込まれたのもあるのですが、
正直、羽桜さんがここまで鬼気迫る演技をする姿を見たことがなかった気がして、
まるで別の女優さんを見ているような、むしろ本当にそういう母親を目の当たりにしているような錯覚に陥るほど、
羽桜さんの狂気に満ちた演技に息を飲んでしまいました。

子どもが障害を抱えるということ

友人の断捨裸零離くんと「自分に子どもが生まれたとしてちゃんと育てられる自信が無い」という話をよくします。

その理由は、犯罪者になってしまうかも知れない、あるいは犯罪に巻き込まれてしまうかも知れない、
いじめをするかも知れない、いじめられて自殺してしまうかも知れない、
引きこもりになってしまうかも知れない、等々いろいろあるのですが。

その中の一つが、障害を持って生まれてきたらどうしたらいいか分からない、ということです。

ちなみにダウン症に関して言うと、赤ちゃんがダウン症を患って生まれて来る確率は700分の1と言われているそうです。

これを多いととるか少ないととるかの感覚は人によって違うと思いますが、
僕はどうしても「自分の子どもは大丈夫だろう」とは思えず、
「自分の子どもももしかしたら……」と考えてしまいます。

そして同時に、「例え障害があったとして自分の子どもを愛して育てよう」という強い意志を、
とても自分には持てない気がしてしまうのです。

実際に生まれてみたら、また感覚も違うのかも知れませんが。

羽桜さん演じる葉子も、
「一希が死んでホッとしてるんでしょう!? 肩の荷が下りたと思ってるんでしょう!?」
と夫をなじってしまいます。

おそらく誰よりも娘を愛している葉子が、
誰よりも残酷で狂気的な姿で描かれているのが、
障害を持つ子どもを育てることの計り知れない苦悩を表しているような気がしました。

そしてそんな苦悩の中にもどうにかして一つの希望を見出したいという願いが、
「一希」という名前に込められていたのかも知れません。

言葉にできない人々

うまく感想をまとめられないんですが、
この作品の特徴的な点の一つが、
主人公の光雄と知恵があまり多く言葉を発しないところではないかなと。

その理由は二人がそれぞれに秘密を抱えていることにもあると思います。

そして、光雄が真実を語らないのは知恵を守るためであると同時に、
自分のような「普通じゃない」人間が何かを語っても受け入れてもらえない、という気持ちもあったんじゃないかなと。

物語の冒頭で、小学校の(おそらく)道徳の授業で、
「いじめられるのはいつも個性のある人、例えば人よりもうまく話せない人。でもその人は、もしかしたらみんなよりもクラスのことをよく観察しているかも知れない」
と先生が語るシーンがあるんです。

最初にそのシーンを見ていたときは、
「あー、ありきたりな先生の言葉だなー」と思って聞いていたんですが。

作中ほとんど喋らずに罪を背負う光雄の姿を見ているうちに、
まさに光雄も「うまく話せない人」であって、
声高に自己主張するのが上手い人ばかりが得をする世の中では、
気持ちを言葉にすることが許されない人間がこうやって理不尽に裁かれているのかも知れない、と感じました。

女優・中島亜梨沙

僕は理解力の乏しい人間なので、
映画とか舞台とか観ていてもそこに込められた意味とかをなかなか理解できないタイプです(笑)。

「種をまく人」は決してエンターテイメント性の強い作品ではなく、
「誰が観ても楽しめる娯楽作品」とは言えない作品だと思います。

なので、観た後でいろいろと分からなかったこともありつつ、
その理解を補完したいのもあっていろんなサイトで観た人の感想とかを読んでいたんですけどね。

「あー、あれはそういう意味が込められてるのかー」とかいろいろ後になって理解できたのと同時に、
すごくたくさんの人が母親役の俺のしずくこと中島亜梨沙さんを絶賛していたのです。

そのほとんどはこれまで羽桜さんのことを知らなかった人ばかりで。

「初めて知った女優さんでしたが、すごく迫力ある演技で引き込まれました」

「母親役の女優さん、未婚で子どものいない方なのに、よくあんなにリアルな母親の演技ができるなと驚きました」

「中島亜梨沙さん、一気にファンになりました」

などなど、宝塚時代のことをまったく知らない人たちから絶賛されていることが、
なんだかすごく嬉しくて勝手に誇らしくなってしまいました。

だって、俺のしずくは89期の中でも成績が良かった方ではなく、
当時は決して実力派とは言われてはいなかったイメージがあったのですが、
退団してからもお芝居と向き合い続けて、
こんな知る人ぞ知る映画を観るような目の肥えた観客の心にしっかりと足あとを残しているんですもの。

 

上に貼った予告編を観ていただければ感じていただけると思うんですが、
羽桜さんが演じる葉子、すごく綺麗なんです。

綺麗だけど、狂気に満ちてすごく怖い。

こんなに綺麗な羽桜さんも子どもができたらこんな怖いお母さんになっちゃうのかなーとか思ってしまったほどに(笑)。

でも、羽桜さんの芯にある美しさと品格が、
こういった作品でよく登場する「思い詰めたがゆえに悪役になってしまう母親」で終わらず、
(言葉が適切ではないかも知れませんが)観る者の同情を誘う結果になっているんじゃないかと思います。

 

今のところ単館上映で池袋以外では観られず、
一日一回のみの上映で一週間ごとに延長を繰り返しているような状況で、
いつまで観られるかも分からないのですが。

しかも、「しずくちゃん出てるから観てみようかな~(⌒∇⌒)」みたいなノリだけで観に行くのは必ずしも勧められません。

年末年始に家族や恋人と観に行くならばスターウォーズにした方がいいと思います(笑)。

だけど、派手なエンタメ作品ではないけれど、
現実の残酷さの中に一つだけでも希望を見出す覚悟のある人、
あるいは羽桜しずくさんの「女優・中島亜梨沙」としての進化を見てみたいというだけの人でも、
一見の価値のある作品だと思います。

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